心の空洞
ある時、70歳後半の男性が遠慮がちに来店されました。
「わたしの耳を測ってもらえませんか?」
聴力検査などわずかな時間で出来てしまいます。快く引き受けました。結果は両耳とも50〜60デシベル、
大きな音でなければ聴き取りにくい段階、家族の方も話しかけるのも面倒になってしまうようなレベルです。
「テレビの音もかなり大きくしないと聞こえにくかったり、自分から家族に話しかけるのもおっくうになっていませんか?」
男性はおもむろに、うなずきます。 こんな補聴器を試されるといいかもしれません
、と試聴して頂き、その時はお帰りになりました。
それから1週間ほどして、また来店して下さり、15万円ほどの補聴器を選択されたのですが、
なんとなく認知症も感じられます。「ご家族様にご確認戴きましょうね」 とご自宅に電話させて頂きました。
電話に出られたのは奥様です。
「あら、アキさん?、わたしよわたし! ○○です。眼科ではお世話になりましたね。」
眼科で検査のお手伝いをしていたときに長年かかわらせていただいた患者さんでした。
ご主人が補聴器を希望して来店していたことはご存じでなく、驚いておられました。 私もびっくり!
翌日、ご夫妻で来店して頂き、状況を説明すると
「その通りなんです。何度話しかけても返事がなかったりするし、あいまいな返事が返って来るすると、
もう、いゃんなっちゃって、ほっといちゃうんです。」
と、こんな中で、夫婦2人だけの生活、ご主人はひたすら寂しさを感じていたのでしょう。
それを言葉に表現できない男性のつらさ・・・、やっと補聴器を試す決心をしたのでしょう。
結局、両耳使用となりました。両耳に装用したときの聴こえを感じた時のご主人の笑顔、忘れられません。
その後、デンチが逆さまに入っていたりイヤチップが抜けていたりと、色々ありましたが、
夫婦お互いの会話が通じ合うようになって、ご主人も奥様もほっと一息の生活を取り戻したようです。